彼のオートバイ、彼女の島
バーチカル・ツイン・エンジンの振動と排気音だけが恋人だと思っていた彼。
だが、夏のあの日、浅間の輝ける入道雲を遠くに見る風の吹く丘で、彼女に会ってしまった。
―ラブ・ストーリーがはじまった。
彼のオートバイは走る。高速道路の地獄めぐりをあとに、日差しの強い山陽路を西へ。
そして夕なぎの瀬戸の小島の蝉しぐれの浜辺へ・・・・・・。
爽快なフィーリングで、オートバイ狂にコオと島から来たミーヨの、夏の日の愛のふれ合いを描く長編小説。
バイクを手に入れて初めての週末に、一人でツーリングに出掛けた。
すてきな女の子と、美味しいほうじ茶も楽しみだったし・・・。
見るもの全てが新鮮で、輝いて見える。
山道を登り終えたら視界いっぱいに緑が広がった。
風をさがして昼寝をしようと、わき道に折れる。
やがて道はアスファルトから砂利道に変わった。
思ったより急な下り坂を前に、体は強張りハンドルにしがみつき、恐怖心から右手がレバーを引くと車体はあっけなく傾いた。
地面に叩きつけられ肺の中から酸素が無くなって、金魚みたいに口をパクパクさせた。
うめき声も出せず、涙がいっぱいあふれ出る。
風が吹いて草の匂いがいっぱいに広がる。
空は青く、雲は白い。
遠くに鳥のさえずりも聞こえる。
となりを見ると倒れたバイクのタンクからガソリンが漏れ、地面にしみ込んでいる。
早く起こさないと・・・と思ってもその場からしばらく動けなかった。
帰り道、“事実は小説より奇なり”ということわざを思い出した。