The Essence of Flycasting

フライフィッシングのキャスティングについて書かれた、メル・クリーガーの名著。

メルおじさんのキャスティングが、とても美しい。

シンプルな語りがとても解りやすく、「何よりキャスティングを楽しみなさい」と彼はおっしゃる。

釣りと同時に、著者に興味を持ってしまう、そんな本です。

この本の最後に書かれた、素晴らしいエピソードを・・・

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アルゼンチンのティエラ・デル・フエゴで私が体験した、素晴らしい夕方のことをお話しましょう。

リオ・グランデは、木の1本も生えていない、風の吹き渡るツンドラの荒野を蛇行して流れています。その川は多くのシーラン・ブラウンを育むものの、その変化のない流れ自体には美も特色もないのです。

1週間にもわたって強風と冷気にたたられて、フィッシングはあまりよくありませんでしたが、私はこの荒涼とした川と巨大で陰鬱な空に親近感を抱き始めていました。

滞在の最後の日、私は友人たちを後に残して川を遡り、私のひいきのプールに着いたのは、夕暮れまで1時間もない時でした。膝までウエーティングし、私はプールの上手から下りながら、対岸のバンクまで20m程度のキャストを繰り返していました。

強く吹いていた風が止まりました。空は日没で火がついたように赤く、私は岸まで戻り、丘を登って日没と川を写真に撮ろうと思いました。

しかし、「また同じような日没の写真?ありきたりだな」と私はこじつけて思い直しました。「写真なんか知ったことじゃない。釣りが優先だ」。

すぐに私は快適なリズムに乗っていました。キャスト、メンディング、フライのスイング、空から下流に1歩下がって、またキャスト。フライは不規則な形のバンクの小さな隙間に、完璧に入っていきました。苦もなくキャストしながら、私は意のままにフライを操り、遠くのターゲットを攻めていきました。オレンジ色の光が不毛な平野を照らし、流れる水に映りました。あたりを包む色は濃さを加え、キャスティングと時のマジックはどんどん強さを増していきました。

幸福感にあふれ、完璧な孤独感を感じつつ、私は大きな声で歌を歌い始めました。その時の私の頭は完全に空白で、人が見たら若干おかしく見えたかもしれません。

そして私は、この幸福な「フィッシング」を、魚に邪魔してほしくなかったのです。

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メル・クリーガー 著 

エッセンス オブ フライキャスティング より

http://www.melkrieger.com/index.html

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